
シアトルで生まれ、日本でも長く親しまれてきた「ハウスブレンド」。タリーズコーヒーの原点ともいえる、ブランドを代表する一杯です。
普段何気なく飲んでいる、その一杯の向こう側には、たくさんの人がいます。
豆を育てる生産者やその品質を見極める人、産地と日本を行き来し、生産者の想いを受け取りながらタリーズコーヒーが目指す味を伝える人、そして店舗のフェローからお客さまへ。
ハウスブレンドができるまでをたどってみると、この一杯がどのようにつくられ、お客さまのもとへ届けられているのか、そのつながりが見えてきます。

現在の「ハウスブレンド」。豆の産地や構成、焙煎度を少しずつ調整しながら、目指す味わいを守ってきた。
シアトルでの創業当初からあるハウスブレンド。その味わいは、ひとつの要素を際立たせるのではなく、多くの人が心地よく楽しめる、バランスのとれた一杯であることを大切にしてきました。
ハウスブレンドは、お客さまがタリーズコーヒーで一番最初に出会うブレンドです。

ハウスブレンドの味わいは、すっきり感(酸味)とボディ(深み)を軸にした時に、ちょうど“真ん中”に位置します。そのため店舗では、ハウスブレンドよりも「もう少し酸味のあるもの」、「さらに深みのあるもの」など、一人ひとりの好みに合わせて次のコーヒーを提案します。だからこそ、お客さまにとってはタリーズコーヒーの味を知る入口であり、フェローにとっては味を案内するときの基準になっているのです。

タリーズコーヒー発祥の地、シアトルにあった当時の店舗の様子。現在につながる味づくりのルーツがここにある。
そんな“真ん中”の味だからこそ、ずっと同じ豆、同じレシピを守ってきたのかといえば、そうではありません。
農作物であるコーヒー豆は、毎年まったく同じ味になるわけではありません。その年の原料のコンディションや品質の変化に合わせて、味わいを細かく調整する必要があります。そのためタリーズコーヒーでは、できあがった商品の味に変化が出ていないか、その商品が持つ味わいの軸から外れていないかを毎週評価し、日頃から確認を続けています。
一方で、コーヒーにも時代ごとのトレンドがあります。タリーズコーヒー誕生のルーツであるシアトルでは、しっかりと焙煎したコーヒーを、ミルクやシロップなどと合わせて楽しむ文化が発展しました。その後、浅めの焙煎によって果実感や産地ごとの個性をより鮮明に味わうサードウェーブの流れも広がり、お客さまが好む味わいも少しずつ変化してきました。

日本で販売されてきたハウスブレンドのパッケージ。デザインだけでなく、使う豆の構成や焙煎度も時代に合わせて少しずつ変わってきた。
そうした変化を捉えながら、“タリーズコーヒーらしさ”からぶれないよう、ハウスブレンドも少しずつ調整を重ねています。実際、使う豆の産地はこれまでも変わり、焙煎度やレシピも以前とは異なります。
その時々に使用する原料の特徴を生かしながら、最もよいバランスを考えることで、ハウスブレンドが目指す「多くの人が心地よく楽しめる、バランスのとれた味わい」を守ってきたのです。

現地ホンジュラスでコーヒーの品質評価を行うタリーズコーヒー担当者(右手前)
「ハウスブレンドをはじめとするコーヒーの味わいづくりは、日本だけでは完結しません。産地から送られてくるサンプルを通して、日本にいても味や状態を確認することができますが、タリーズコーヒーは必ず現地へと足を運びます」
そう話すのは、ビーンズ開発を担当する渡邊瑛子。産地へと足を運び、現地のパートナーと豆を選びながら、商品設計や焙煎の調整など、ハウスブレンドをはじめとするコーヒーの味づくりに携わってきました。
「現地に行く一番の理由は、生産者や農協の人たちと同じカップの液体を一緒に飲むことです。同じ豆を評価しているようでも、産地と日本では水も違いますし、コーヒーミルも違う。厳密には同じコーヒーを飲んでいるわけではないんです。だから、同じ一杯を飲んで、彼らがどう感じるのか、私たちもどう感じるのかを一緒に評価する。それはその場でしかできないことで、それがすごく重要だと思っています」(渡邊)
同じ言葉を使っていても、思い浮かべる味が同じとは限りません。たとえば「グレープフルーツのような酸味」と伝えても、日本で食べるグレープフルーツと、産地の人たちが日頃口にしているものとでは、味わいそのものが違うことがあります。

コスタリカで出会ったフルーツ。産地の食を知ることも、現地の人と味わいを共有するための大切な手がかかりになる。
そのため、現地の人が普段どんなものを口にしているのかを知ることも大切です。同じ言葉で味について話すためには、その土地の食や暮らしを知る必要があり、それも現地へ足を運ぶ理由のひとつです。
産地で生産者と同じ一杯を飲み、目指す味を共有する。そして商品として形にしていく。タリーズコーヒーでは、こうしたやりとりを一つひとつ重ねてきました。
長年にわたり信頼関係を育んできた産地のひとつが、ホンジュラスです。理想のハウスブレンドを追求するなかで、ブレンドとの相性やコーヒーの品質だけでなく、生産者の皆さまの品質向上への真摯な取り組みや丁寧な栽培、そして「より良いコーヒーを届けたい」という熱い想いにも共感し、2027年1月以降、ハウスブレンドの原料の一部として新たに加わることとなりました。

カッピングでコーヒーの品質を確認するロニー氏。世界的なコーヒーの品評会である「Cup of Excellence(カップ・オブ・エクセレンス)」のヘッドジャッジなども務められ、国内外で高い評価を受けている。
ホンジュラスとの関係を語るうえで欠かせないのが、ロニー・ガメス氏。コーヒー生産者であり、品質を評価する専門家でもあります。現在は、生産者をサポートするために立ち上げた「Raga Cafe(ラガ・カフェ)」で生産者への指導や品質向上にも取り組んでいます。
ロニー氏が初めて日本でタリーズコーヒーを知ったのは、2010年。東京で何度も店舗を見かけ、「いつかタリーズコーヒーでホンジュラスのコーヒーを採用してもらいたい」と思ったとのこと。
2016年にロニー氏からコーヒーのサンプル提案を受けたものの、すぐに採用は決まりませんでした。しかし、その後も提案は続き、ようやくタリーズコーヒーでホンジュラス産のコーヒーが商品として形になり、少しずつ関係を深めていきました。

ホンジュラスで、タリーズコーヒーが求める味や品質についてロニー氏と話す渡邊。ここから、継続して届けられるコーヒーを一緒につくる取り組みが始まった。
そうした取り組みの中で、タリーズコーヒーは、「コーヒーでホンジュラスを有名にしたい」というロニー氏の想いと、「お客さまにいいコーヒーを届け続けたい」というタリーズコーヒーの想いが重なるのではないか、と考えるようになりました。
そして翌2023年、タリーズコーヒーは、ハウスブレンドの原料として求めているコーヒーについてロニー氏に伝えました。当時、タリーズコーヒーは全国で約760店舗。そのすべての店舗で同じ品質を届けられるコーヒーで、一番いいものが欲しい、と。
少量だけの特別な一杯ではなく、多くのお客さまに継続して届けられること。その難しさは、ロニー氏もよく知っていました。そこで「一緒に頑張って、継続できる原料をつくっていこう」と約束します。
そこからタリーズコーヒーは、ホンジュラスをたびたび訪れ、生産者と接するロニー氏の姿を見てきました。生産者一人ひとりのもとへ出向いて必要なサポートを考える。そんな関係を積み重ねる様子を見て、ここなら継続していいコーヒーをつくっていける。そう確信したことが、ハウスブレンドの原料としてホンジュラスを迎える大きな決め手となりました。

ホンジュラスの生産地を訪ね、生産者たちと交流する渡邊(右)。農園で栽培されている品種や農地を実際に見ながら、コーヒーの味わいが生まれる背景を確かめる。
ハウスブレンドに求められるのは、ただおいしいことだけではありません。
タリーズコーヒーで一番愛されているブレンドだからこそ、品質はもちろん、多くの店舗に必要とされる量を届けられること。そして、それをその先もずっと続けられること。産地にもその背景まで知ってもらうことが重要だと考えています。

生産者に、コーヒーの評価方法や品質について伝えることなど、一人ひとりに必要なサポートを考えることも、ロニー氏(中央)が大切にしていることのひとつ。
タリーズコーヒーでは、10年後もハウスブレンドをつくり続けるために、この先も届けられる品質と量を見据えて原料をつくってもらうことが大切だと考えています。それは、産地の10年後を考えることでもあり、生産者にとっても継続的な取引につながるのです。
そして、ロニー氏が大切にしているのも「持続可能性」です。
「生産者がきちんと収益を得て、それを設備やコミュニティへ投資することで、長くコーヒーをつくり続けられるようにする。そして、取引先とも長い関係を築いていく。それが持続可能性だと考えています」(ロニー氏)

若い世代や生産者に、コーヒーの抽出方法も指導するロニー氏(中央)と渡邊(右)。育てた豆がコーヒーになったときの価値を生産者自身が知る機会も大切にしている。
限定商品での取り扱いから、ハウスブレンドというレギュラー商品へと広がることは、産地にとっても大きな変化です。毎年継続して必要とされる原料になれば、その先の生産についても考えていくことができます。
「将来、ホンジュラスの次の世代、若い生産者たちがコーヒー生産に参加し、ずっとコーヒーをつくり続けていくことを願っています」(ロニー氏)

イベントに参加した会員の方々とロニー氏。ホンジュラスから来た生産者にとっても、飲む人の反応を直接知る機会になった。
2026年10月、ロニー氏とホンジュラスの生産者たちをゲストとして迎え、タリーズコーヒーのコミュニティサイト「TULLY’S community Hello!」の会員を招待したトークイベントが開催されました。
2027年1月以降に販売される、ホンジュラス産の豆を原料の一部に加えた新しいハウスブレンドを、参加者がひと足早く試飲。ロニー氏たちも一緒に、その味を確かめました。
ロニー氏がまず挙げたのは、まさにハウスブレンドが目指す味わいでもある、全体のバランスのよさでした。チョコレートを思わせる甘さがあり、クリーンで、酸味や複雑さも感じられる。クリーミーなボディがあり、飲み終えたあとにも長く余韻が続くと評価します。
ホンジュラスをはじめ、それぞれの土地で育った各国のコーヒーには、それぞれの個性があります。その違いを生かしながら、一つのハウスブレンドに仕上げていくのです。
そしてタリーズコーヒーのハウスブレンドは、比較的しっかりと焙煎されていますが、深く焙煎しても感じられる果実由来の甘みと酸味、そこに焙煎から生まれるコクが加わったバランスを大切にしています。
同じ豆を使い続けているわけではないのに、いつ飲んでもタリーズコーヒーのハウスブレンドだと感じるように。新しい産地を迎えても、目指すのはこれまでと同じ、毎日飲みたくなる一杯なのです。

ホンジュラスの生産者、フランシスコ・アルバラード氏。自分たちのコーヒーを飲む日本の参加者との交流が、次にコーヒーをつくる原動力につながっていく。
今回、ロニー氏と一緒に日本を訪れた生産者の一人、フランシスコ・アルバラード氏は、この日のイベントで自分たちが育てた豆から生まれたコーヒーを、日本のお客さまが飲む姿を目の当たりにして、驚き、感動したと話しました。そして、こんな言葉を残してくれました。
「これからコーヒーをつくるたびに、みなさんのことを思い出します」(フランシスコ氏)
ロニー氏は、こうした関係を「チェーン(つながり)」という言葉で表しました。
「生産者も消費者も、コーヒーに関わるそれぞれの人みんながつながっていることを感じてもらう。それがサステナブルなことだと思っています。このチェーンこそが、長く関係を続けていくためのひとつのモデルになるのです」(ロニー氏)
さらに「コーヒーは一杯の味だけではない」と話します。
「コーヒーが商品になった時点で、すでに生産地と消費者との関係は始まっています。実際に産地へ行くことはできなくても、一杯を選んで飲むことで、その土地とつながることができると考えています」(ロニー氏)

2027年1月以降、ホンジュラス産の豆が原料の一部として新たに加わる、ハウスブレンド。新しい産地を迎えても、目指すのはこれまでと同じ、いつもの味。
2027年1月以降、ホンジュラス産の豆を新たに迎えたハウスブレンドが、全国の店舗へ届きます。お客さまにとっては、いつもの店舗で飲む、いつものハウスブレンドかもしれません。
その向こうには、豆を育てる人、品質を支える人、目指す味を伝える人、一杯をお客さまへ手渡すフェローがいます。そして、その一杯を飲むお客さまの存在もまた、次に生まれるコーヒーへとつながっていくのです。